2022年4月号「定年を迎えた病院勤務医の随想」


 

 

 

40年余り勤めた病院を3月末で定年退職となった。

 

医学部を卒業して以来、数年間の出向研修や2年間の診療所勤務経験はあるが概ね同じ病院で仕事をしてきた。その間に社会の変化や医療制度の変遷も見てきたが、時代や地域の要請に伴い病院のあり方も変わってきた。中小規模の病院が急性期中心の医療からリハビリ機能や緩和ケア、一部の在宅医療を受け持ち、急性期と在宅(地域)をつなぐハブの役割を果たすように変わっていった。高齢化が進行する中で病気を治すだけではなく、病気を抱える人を支えていくことがますます大きな役割となっている。医師にも専門的技能を発揮するだけでなく、総合的に俯瞰しマネージメントする能力が求められている。

 

2025年には香川県の人口の3人に1人が65歳以上になるという。自分自身がその年令に達すると漠然とした不安な気持ちになる。付き合いの長い患者から「先生、私より長生きしてずっと診てくださいね。」「私は(体重が)変わらんけど、先生少し痩せたようやけど大丈夫?」など励ましや労りの言葉をかけられることも多くなった。まだまだ期待(と同情?)は大きい。定年後も、多くの先輩医師を見習ってもう少し頑張らねばと肝に銘じる。

 

それにしても、医師の働き方改革が叫ばれてずいぶんになるが、自分自身を振り返っても忙しかったときが多かったように思う。今でも急性期病院では昼間は外来や検査、手術、夜になってようやく入院患者の回診、月に6~8回の当直をこなし、休みはほとんどないという若手医師の話もよく聞く。新型コロナの時代になってますます医療従事者は厳しい状況におかれ疲弊している。

 

働きがいや生きがいは仕事の中だけで得られることはない。過酷な長時間労働を追認するような偽りの改革ではなく、持続可能な仕事のあり方と人間らしい生活を保障する真の働き方改革が行われるよう、医師をはじめ医療界が声を上げていかなければならないとこれまでの医師生活を振り返ってつくづく思う。

 

                                         高松市 蓮井宏樹